Homeコラム第八寮歌「春残更に」

 本文章は、同窓会報(平成23年12月1日)に投稿されたものを再掲させていただきました。

私の読んだ第八寮歌「春残更に」の情景

須田大春(8期)    

1.春残更に銀城の 晩鐘窈冥に谺せば 聲なき聲は拡ごりて 不羈卓犖の若人は 永劫の生命に夢覚めぬ
 ハルザンコーニ ギンジョーノ カネヨーメーニ コダメセバ コエナキコエワ ヒロゴリテ フキタクラクノ ワコードワ トワノイノチニ ユメサメヌ

 06-0752(注1) 残更 ザンコウ 残りの夜(午前4時ごろ)
 11-0525 銀城 ギンジョウ 中国の県名???
      暁鐘 ギョウショウ 夜明けの鐘
 08-0661 窈冥 ヨウメイ 奥深く暗い。奥深くて測り知れぬさま
 01-0236 不羈 フキ 拘束されぬ。 羈は馬のおもがい、たづな。
 02-0557 卓犖 タクラク 超えすぐれる

 春の夜明け前。銀城の暁鐘の音が暗闇にこだまする。残更は五更。夜を5つに区分して5番目というから午前3時から5時の間か。藤村は「夜明け前」で明治維新の前夜を維新の50年後に書いたが、春残更の夜明け前はリアルタイムで書かれた敗戦前夜である。暗闇に吸い取られかすかに聞こえた暁鐘の音に、「不羈卓犖」の若人が永劫の命に夢醒める。東京高校が尋常科の募集を停止して以来、都内に比類無い受験最難関校となった都立高校の生徒は、自らを卓犖(=超越的に優れている)といって恥じるところが無かった。不羈(=くつわをはめられない野生馬)の伝統は、卓犖とはとてもいえないわれわれ新制の世代にも受け継がれている。

2.嚶鳴の友真帆挙げて 引くや真理の澪標  轗軻の嗟嘆深くとも 斗●(注2)の人と云ふ勿れ 大声俚耳に入らずとぞ
 オーメーノトモ マホアゲテ ヒクヤシンリノ ミオジルシ カンカノナゲキ フカクトモ トソウノヒトト ユーナカレ タイセイリジニ イラズトゾ   ゙
 02-1182 嚶鳴 オウメイ 鳥が相和して鳴く。鳥が友を求めて鳴くさま。
 08-0197 真帆 マホ 順風に孕んだ帆
 07-0297 澪標 ミオジルシ(ミオツクシ) 水路を示すために水中に打った杭
 10-1066 轗軻 カンカ 車の進みがたいこと。志をえないさま。
 02-1122 嗟嘆 ナゲキ なげく。嘆きたたえる。
 02-1122 斗?之人 トソウノヒト(トショウノヒト) 器量が小さくつまらぬ人物
 03-0367 大声不入於里耳 タイセイリジニイラズ 高尚な言論・高雅な音楽は俗人には解せられない

 永劫の命に目覚めた「不羈卓犖」の若人たちは、真理の道をまっしぐらに進もうとするが、真帆どころではない逆風で前に進むことが出来ない。「轗軻の嗟嘆」=時の世に受け入れられないと嘆くとしても、「斗?之人」=役に立たないつまらぬ人間と評価してもらっては困る。真理を説く言葉がミーハーに受け入れられないのは、いつものことだ。

3.さはれ戦雰迫り来て 道義地に墜つ真中に 世の木鐸と衿持負ふ 我ら起たずば蒼生の 如法闇夜を如何にせむ

 サワレセンフン セマリキテ ドーギチニオツ タダナカニ ヨノボクタクト ホコリオウ ワレラタタズバ ソーセーノ ニョホーアンヤオ イカニセン

 06-0001 木鐸 ボクタク(モクタク) 文教を施すひと
 09-0835 蒼生 ソウセイ 人民。あおひとぐさ。
 03-0635 如法暗夜 ニョホウアンヤ 真の闇

 とはいっても、(第一高等学校のように)「栄華の巷を低く見て」世の中に超然とすることは出来ない。戦争はすぐそばまで迫ってきており、道義は地に墜ちている。このときこそ、世の木鐸としての誇りをもった我らが立ち上がらなければ、真っ暗闇のなかにいる人民を救うことはできないのだ。戦後の学生運動のアジ演説そのままである。学生運動の先駆性をとなえた武井昭夫全学連初代委員長(輝ける委員長と呼ばれた)らが日本で最初の高校自治会を八雲が丘に設立したのは、このたった4ヵ月後1945年10月25日である。「砂川」の全学連書記長高野秀夫も、60年ブント書記長の島成郎もそこにいた。

4.見よ戎羯は跳梁りて 兵燹鳳城涜す秋 征驂馳せて鸞纛に あはれ護国の鯨波捲く 健児が悲願誰か知る
 ミヨジューケツワ ハビコリテ ヘーセンホージョー ケガストキ セーサンハセテ ラントーニ アワレゴコクノ ゲーハマク ケンジガヒガン タレカシル

 05-0005 戎羯 ジュウケツ 戎は西方のえびす。羯は匈奴の別種で五胡の一。
 02-0085 兵燹 ヘイセン 戦争のために起こる火事。燹は野火。
 12-0790 鳳城 ホウジョウ 長安。帝都を言う。
 04-0817 征驂 セイサン 遠くに行く車馬。驂はそえうま。
 12-0890 鸞纛 ラントウ 天子の用いる大きな旗。
 12-0754 鯨波 ゲイハ 衆人一斉に上げる聲。鬨の声。

 米軍の空襲ははげしくなり、首都東京が兵火のさなかにあるとき、はるか国土を離れて「皇軍」の旗の下に戦っているあわれ(=あっぱれ?)な健児たちの心中はいかばかりであろうか。

5.北斗の啓示高くして 短檠ゆるゝ今宵しも 挙ぐや警世の宴莚 八雲ヶ丘に鳴り出づる ●(注3)鞳の音聴かざるや
 ホクトノサトシ タカクシテ タンケーユルル コヨイシモ アグヤケイセノ ウタムシロ ヤクモガオカニ ナリイズル トートーノオト キカザルヤ

 08-0290 短檠 タンケイ 短い燭台。
 12-0177 ?鞳 トウトウ 鐘の音、瀧の音。

 こちらは、別天地の八雲が丘。北斗七星は天空高く変わることなく北を指し示しているが地上は灯火管制でろうそくが寂しくゆれている。「警世の宴莚」が盛大に催されたとはとても信じ難い。「?鞳の音」は暗い夜闇に吸い込まれる鐘の音ではなく「明けぬ夜はない」と信じて明日を準備する若者たちの「夜をこめて」の語らいだったと信じたい。

 府立高等学校という固有名詞のない学校を後継した東京都立「大学付属」高等学校という、固有名詞のない学校が消えるにあたってみんなで難しい歌を歌った日の記憶のために。

注1:諸橋轍次「大漢和辞典」による。(数字は巻―ページ)
注2:竹、小、月を立てに並べた漢字。
注3:革の偏に堂の旁。

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